MANGA SICK

先日、幼馴染とご飯を食べた。
久々のちょっといい外食である。
全員テンションが最初からワイルドスピードメガマックスという感じだったのだが、懐かしい昔話と現在進行形のオタク話が混ざり合った結果「漫画雑誌の、応募者全員サービスの財布とかポーチとかバッグとか興奮したよね……」というネタが飛び出した瞬間のブチ上がり具合といったらすごかった。応募者全員サービス。ヤベエ。テレフォンカードとかもあったよね。ヤベエ。
子ども向けの娯楽が乏しかったあの頃、漫画雑誌は月に一度の生きがい更新コンテンツだった。
連載している漫画はもちろん、読者投稿コーナーから広告ページに至るまで、隅々まで何度も繰り返し読んで過ごしたものだ。毎月必ず買って毎日繰り返し読んでいるのだから内容もバッチリ頭に入っているのに、わざわざ「前回までのあらすじと登場人物紹介」も読んでいた。マジで娯楽の少なかった時代だったな。
私は筋金入りのりぼんっ子だった。
初めて買ってもらったりぼんには「ハンサムな彼女」「有閑倶楽部」「天使なんかじゃない」「姫ちゃんのリボン」「こいつら100%伝説」などが掲載されていた。それまで漫画に触れたことがほぼなかったので(両親とも漫画を読む文化に触れずに育った終戦直後世代である)、この世には漫画だけで構成された雑誌があるということにまず驚いた。
そしてその中身の華やかさといったらもう、田舎の小学生にはあまりにも眩しく美しく感じられ、連載途中で話もキャラもよう分からん漫画ばかりだというのにページをめくる手が止められず、こうして私はあっという間にりぼんっ子と化したわけだ。
恋愛の機微など全く分からない子どもだったが、「おしゃれなお姉さんたちの毎日」を眺めていることが多分楽しかったのだ。
姫ちゃんのリボンなんかは恋愛の機微より「こ、ここで次号へ続くの!?ここから話を続けるとか出来るの!?この衝撃展開で!?どうなっちゃうんだよ〜!!」とハラハラさせる引きの方が印象に残っている。連載だと本当に毎回毎回いいところ、ハラハラするところ、衝撃の展開で決まって次号に続き、一ヶ月ソワソワさせられっぱなしだった。水沢先生は本当に連載が上手い漫画家さんなんだろうなと思う。姫ちゃんのリボン、今思い返すと姫ちゃんかなりハードな目に遭ってるよね。


「ねこねこ幻想曲」や「くるみの森」といった、恋愛要素がさほど前に出ず、動物が活躍する漫画もお気に入りだった。これはりぼん以外の少女漫画でも当てはまりがちで、「動物のお医者さん」「みかん絵日記」「まっすぐにいこう。」なんかも昔から大好きである。オタクが好きになる少女漫画、動物が出張っていがち説を推したい。
当時のりぼんは時々本気で怖い絵柄のホラーやガッチガチのファンタジーなんかの読切もよく載っており、そういうところで私のオタク魂は少しずつ揺り動かされていたのではないかと思う。鬼が復活するとか悪霊を退治するとか超能力を持って生まれた生き別れの双子とかそういうやつである。
郡まきお先生が好きで読切が載っているといつもおそるおそるページをめくっていた。あの独特の世界観は忘れられない。線が細くやや尖った手書きの文字まで覚えている。
そんな郡まきお先生が作者紹介ページで自らをモスラみたいなキャラで描いて「こーりまきおや。」みたいに書いてたのすごく面白かったな。


あの頃のりぼんはそんな感じで何から何まで読み込んで楽しんでいたのだが、特に私が好きだったのは谷川史子先生の漫画である。
どちらかといえばほんわかとした絵柄だけど、出てくるのは自分の意思や内的世界がハッキリしている女の子たちが多く、おしゃれに全く興味がない女の子が普通に存在していて普通に扱われる世界観、ちょいちょい滲み出る文学っていいよね感、登場人物たちが暮らす叙情的な街の雰囲気、全てがドンピシャで憧れた。
一番好きなのは各駅停車である。映画でも漫画でも群像劇ものが昔から好きだ。


嗚呼我らが青春の少女漫画雑誌よ、とひとしきり懐かしみ、それはそれとして今の子らにあの頃と同じ興奮を雑誌で味わえっていうのは確かに無理あるよなーと冷静にもなった。
一ヶ月間同じ雑誌を繰り返し繰り返し読んで、よく分からない内容やあんまり合わない内容の漫画もとりあえず何ヶ月か読んでみて、みたいなことは子ども向けの娯楽が極端に少なかった時代だからこその楽しみ方である。別にどっちがいいとか悪いとかではない話だと思う。


我が家の娘たちはわりと本が好きな方だ。
かいけつゾロリ、ナツカのおばけシリーズ、ミルキー杉山の名探偵シリーズ、キャベたまたんてい、ルルとララシリーズなどなど、定番の児童書たちは我が家でも数年前から大人気だ。完全に親の趣味でしかないジャンルの洋画も一緒によく観ていて、意外とストーリーをちゃんと理解しているように思える。
とりあえず娯楽性が高い物語はひととおり楽しんでいるのだが、その中では漫画への興味は比較的薄い。
別に一切読まないというわけではないのだが、今読んでいる漫画は魔入りました!入間くんのみである。二人とも入間くんで漫画を学んだといっても過言ではない。
入間くんのおかげで私は娘から「ママったらまた漫画ばっかり読んでダラダラして……漫画の何がそんなに面白いんだか全然分かんないわね……コラッママッ!マジメに人生やりなさーい!」などと怒られずにすんでいるというわけだ。ありがとう入間くん。こんなママでメンゴメンゴ。
ただ少女漫画雑誌好きっ子だったオタクとしてはもう少し色々漫画トークできたら楽しそう〜という気持ちがあり、動物のお医者さんとかもメチャクチャいいよ〜ほらほらちびまる子ちゃんもここにあるよ、あっ谷川史子先生の漫画は全部揃ってるからまかせてネッ!などとマイ本棚の中身をニチャニチャ説明したいところなのだが、それをやったら親として終わりだなと思ってぐっと堪えている。たまに娘たちの目線に合わせてこっそり手に取りやすい位置にそれらを移動させたりはしているが。
趣味の押し付けはよくない。それが親からだともう最悪である。グッとこらえて知らん顔をしつつ、俺はやるぜ俺はやるぜと今日も家の中で一人少女漫画ネタをつぶやいている。